あなたを好きでいたいよ

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紫織が消息を絶って二年が過ぎた。 婚約破棄の後に昌行は、常務のお嬢さんと結婚し、 去年子供が生まれて今や一児の父だ。 僕はといえば仕事にのめり込み、 それなりに交際もしたけど、恋だけはうまくいかない…。 本音を言えば紫織に会いたい、会って話がしたい。 それが叶わないならせめて元気かどうか。 それだけでも知ることができたら…。 昌行が常務の義理の息子になったことは、社内の様子を変えていた。 特に彼のいる営業二課は、遠目に見ても、 やりにくそうなのが伝わってくる。 営業一課、二課の合同飲み会で気の置けない仲間が揃うと、 それぞれ口々に彼の話になっていくのだった。 「野心を持つと人は、変わるっていうけど確かに変わったなぁ」 「そんな奴じゃなかったのにな」 「俺、辞めた上條とは同期だったけど最後ちょっと可哀想だったわ」 「上條? 長野とつきあってたんだっけ?」 「そう。女子共の話しによると挙式直前に常務の娘に鞍替えしたらしいぜ?」 「げー。最低だな」 「その話、長野本人から聞いたんだけどさ。 日生が長野を殴った時、正直ちょっとスカッとしたんだよな」 「あー俺も俺も!」 同僚が僕の肩に手を回し叩き、意味ありげに笑う。 そう、あの日僕は彼を殴った…。 「俺は、捨てたんだ。すべて過去もね、あいつも過去になったんだよ」 「ほんとひでー」 角で立ちすくんでいる紫織を見た時。 今にも泣きそうな顔をした彼女が僕に気づくと、 慌てて走り去ってしまった。 僕は、…もう黙ってはいられなかった。
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