あなたを好きでいたいよ

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「昌行…」 「よぉ、ヒナ」 「今の話、本当かい?」 「…まあね。何だったらヒナにやるぜ? もういらね…」 「ふざけるな!!」 「ッ! …てぇーな。何すんだよ!」 次の瞬間、昌行の胸倉を?んで彼を殴っていた。 「…謝れ。紫織に謝れよ!」 「あぁ?」 「君がどんな野心を持とうと構わない。 だけど、それが彼女を傷つけていい理由にはならないだろ!!」 あんなどす黒い…。 心の奥が煮えたぎるような感情を、 僕は、知らなかった。 僕が誰かを殴ったのも、 それが生まれて初めてのことだった。 「しばらく女子がうるさかったよな?」 「きゃー日生くん、カッコいいーなんて噂になってさぁ」 「いやいや。マジ男でも惚れるって」 「よせよ」 いつの間にか自分の話になってきたのがテレくさくて、 話しを変えようと口を開きかけた時。 一人の先輩が言った。 「そう言えば…俺、上條と会ったよ」 え? なんだって? 思わず席を立った僕の動揺や驚きは、 周囲のどよめきにのまれ、かき消されていった。 営業二課の月島涼介。 無精ひげに、緩く結んだネクタイ。 煙草とライターを手に持って時折酒の匂いをさせて出勤。 いい加減に見えて営業成績は、常にトップ。 一方で女性好きと聞くけど。 その人が、どうして紫織と…。 場違いな嫉妬が心をもたげた時、 無遠慮な質問が、矢継ぎ早に繰り出された。 「いつ会ったんスか? 月島さん」 「一週間ほど前だな」 「どこで? バーか? 口説いたりしてないだろうな?」 「まさか。会ったのは、青山。しかも客先だぞ?」 好奇心とからかいを交互に受け月島さんは、答えていく。 「客先?」 「おー。元々上條がいた頃の客が再契約する事になってな、 俺が新担当することになったの。その挨拶の時だよ」 「なんだ、つまらん」 「じゃ上條、客先にいるんすか」 「まあ、そういうこと☆」 「客先の営業かぁ…。やりにくいっスね」 「おいおい。俺は、上條が営業してるなんて言ってねえぞ?」 「え? だって客先にいるんですよね?」 「上條は、営業じゃなくて書店員だよ」 「書店員!? なんでそんな…」 「俺が知るか」
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