あなたを好きでいたいよ

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第三者から見れば、あんなにひどい別れ方だったのに…。 あんなにひどい事ができた相手なのに。 それでも今も好きで立ち直りきれないでいる君。 「好きなままでいいんだよ。無理に忘れなくていい。 その気持ちを持ったまま、君は新しい自分になる」 何を言ってるんだろう…。 本当は、今も彼を想い続けていることに焦り、 いつ会えなくなるかわからない不安を感じながら、 自分だけが彼女を癒したいとか、身勝手で幼稚な思いから。 君を独占したくてたまらないのに…。 君の心に少しでも僕は、男として映ってる? 僕らは、地下鉄の方へ戻りタクシーを拾った。 僕の部屋へ帰る道なら、紫織のマンションを通過する。 「遅くなったね。つきあわせてごめん。送るよ」 「ありがと」 「眠くなったら僕に、もたれていいから」 妹や弟で慣れてるし。 「もう寝ないよ」 「はは。さっきの地下鉄で眠ったし?」 「…わたし、不眠症なの」 「え?」 茶化すつもりが意外な切り口で返ってきた。 「お酒のせいだと思っていたけど、ヒナといると不思議と眠れるのよね…」 「それは、どういう…」 僕の動揺をよそに紫織は、真面目な顔で不思議なんて言いながら続ける。 「ヒナといると安心するのかしら…。…ッ!」 気を持たすような言葉を無意識に言ってると気づいたらしい。 よりにもよって僕らがタクシーを拾おうとしていた場所は、 人の顔の表情がわかるほどには、明るくてテレている表情がよく見えた。 紫織は、耳や首まで赤い。 どうしよう可愛い…。 あぁ、もうそんなこと言われたら、 たまらなくなる。
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