あなたを好きでいたいよ

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夜になるのが怖かった…。 一人きりで眠るのが怖かった…。 眠れば夢を見る。 夢が過去を連れてやってくる。 あの人と、昌行と最後に抱き合った夜…。 わたしを抱きながら言った。 『お前、どうして旅館の娘なんだよ…。 大企業の役員の娘なら俺は、…。 お前を嫌いになったんじゃない。 お前のことが好きなのに、 お前を選べない自分のことが嫌なんだよ…ッ。 紫織お前に…』 また眠れなくなった…。 ヒナと再会してから眠れる日も増えてきたのに、 昌行にヒナが重なっていくの。 泣いて目が覚める日が続いた。 涙のにじんだ視界では、誰かがわたしを見ている気配がした。 クリアになってその人が正確に模られていく。 「…ヒナ?」 「気がついたかい?」 心配顔からホッとした表情に変わった。 どうしてわたし…という前に彼が教えてくれる。 「書店で倒れたんだよ」 「え…」 そう言えば周囲を見渡すと自分は、 どこか応接室のソファに寝かされている。 「ここどこ?」 「オーナーの各務さんの(探偵)事務所だってさ」 「事務所?」 「僕もよく知らない。周防くんがここへ連れてきてくれたんだ」 「周防くんが?」 まだフラフラするけど起き上がる。 「ヒナあなたは、どうしてここへ?」 「僕の携帯に連絡があったんだ。君の携帯で北川さんから」 「北川さん!?」 「君の後輩の女の子だね」 「どうして北川さんがヒナの携帯に…?」 「彼女、君のご両親に連絡を取りたかったらしい。だけど君の実家が、 遠いことに気づいて僕にかけてきたってわけだ」 「……このくらいで余計なことを」 吐き捨てるように言うと珍しくヒナが言った。 「そんな言い方は、ないだろ? 彼女、テンパってたんだよ。 僕が来るまでだって交替で君についてくれてたんだぞ?」 「……そう。そうよね、ヒナだって心配してきてくれたのに…」 自己嫌悪から膝に顔を埋める。 後輩に当たって…。 ヒナに当たって一体何してるの。
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