あなたを好きでいたいよ

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『この手を離したくない』 部屋へ戻っていく背中を何度も抱きしめたくなっては、 その気持ちを振り切り、笑顔を作った。 僕は、二人の恋を誰より近くで見ていた。 幸せな時も、恋のカタチが変わっていくさまも…。 何度言いだしかけてやめただろう。 彼を忘れて僕と…。 一度も言ったことはなかった。 言うつもりもなかった。 彼女が幸せならそれでよかった…。 だけどもう見ているのは、イヤだ。 それは、僕だけの思い。 気づいてたんだ。 僕の存在が君の負担になるかもしれないと。 僕は、彼との幸せな時も、苦しい時も君に思い起こさせてしまう。 だから覚悟していたつもりだった。 「もう会いたくない」 「もう会いに来ないで」 君からそう告げられる日が来るだろうと。 「嫌なら、突き飛ばしていいから…」 抱きしめると紫織は、泣きそうな顔になった。 抱き込んだ胸の内から声がする。 「もう会わない方がいいって言ったのに…なんで来たの」 「どうしても会いたかったから」 「… わたしが好きなのは…」 「知ってる。………わかってるよ」 いいんだ…。 君が僕を好きにならなくても。 それでも僕は…。 君を好きでいることしかできないんだから。
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