あなたを好きでいたいよ

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「…怖いのよ…。あなたの言うとおり、中途半端だって、 勝手だって気づいてる…。この2年必死に生きてきた…。 これまでを捨ててやり直すんだって、誰かを好きになりかけたこともあった…。 でも、昌行への気持ちも、自分への自問も消えないの…。 何故だめだったのか、今もわからなくて…踏み出すのが怖いの…。 昌行とは違うって、どんなに頭ではわかっていても…自分に自信が持てないの。 もう、もう…傷つきたくない…。 好きになって、捨てられると思ったら、 誰かを好きになるのが怖くてしょうがないの…」 僕と話しながら感情をぶつける紫織に正直ホッとしていた。 紫織には、一人が平気だと思って自分の中に抱え込むところがあるから。 自分の中の恐怖や弱さに気づけた彼女に思った。 「大丈夫だよ」 「…なにが?」 「人を好きになってその人と結ばれないのは、悲しいことだよ。 だけどね、君はだめなんかじゃない。 これからもどんな事だってやれるし、頑張っていける。 傷つく痛みを知った君だからまた人を愛せるさ」 「……ヒナ…」 「怖いなら怖いでいいよ。どんな君でも、そばにいるから」 こぼれそうなほど涙をためた紫織をぎゅっと抱きしめる。 躊躇いがちに背中へ回された手に耳元で囁く。 「泣いていいよ」 「……ッ…」 泣かせてあげたかったんだ。 いつも泣きそうな顔の君が僕を避けるのは、 同情しないでなんて言うのは、…プライドなんかじゃなかった。 泣きたい時に泣けない君の呪文。 君が他の誰かじゃなくて君自身へ向けたおまじない。 つよがりだったんだ。 君は、同僚や友人として僕を見ていたから、 遠慮してたんだろうけど僕は、いつ頼られてもかまわなかった。 例え君が僕を好きにならなくても…。 そばにいるよ。 悲しみや孤独から君を守るから。 笑っていてほしい。
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