あなたを好きでいたいよ

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「…ヒナを怒らせたら怖いって、忘れてたわ」 「え!?」 ひとしきり泣いてまだ僕の腕の中にいた紫織が不意に呟いた。 「こ、怖かったかい? 言い方きつかった?」 思わず紫織の顔を見ると彼女は、笑っていて…。 「ううん。思い出していたの…。 まだ寮にいた頃、一度ヒナに何も言わないで ベランダを行き来したら、すっごく怒られたこと」 「あ、あれは…」 「なんで僕に何も言わないんだよ、いいかい?  何度も言うけど君は女性! もっと自分を大事にしなきゃダメだって…」 「……一人で来たって聞いた時は、肝が冷えたよ」 思い出してクスクス笑う紫織に僕もげんなりして言う。 「あの時ビックリしたけど嬉しかったの…。 都会は、人が多いけど他人の事に無関心で自分事のように、 怒ってもらえることなんてそうないから」 「僕は、女性は守るものって信条なだけだよ」 「……よかった。ヒナは、変わってなくて…」 「君だって本質は、変わってないさ」 あぁ、もう…どうして。 どうしてこんなに彼女は、愛しいんだろう…。 家族にならどんな言葉もスラスラ出ていくのに、 肝心の紫織には、言葉にならない。 もどかしい…。 心が震えて言葉にならない。 抱きしめていたくてどうしようもない…。 「…紫織。紫織…好きだよ」 このまま腕に抱いて閉じ込めておきたい…。 今度こそ誰にも、傷つけられないように。 君が苦しまないように…。 離したくない。 「……嫌なら、逃げていいよ?」 僕がまだ理性的に振舞える間に…。 引き返せる今のうちに。 「……。嫌じゃない…」 「え?」 「…ヒナ…」 「なに?」 「わたし、…ヒナに優しくされるの、…好きかも…」 「…そう?」 「欲張ったら、もっと優しくしてくれる?」 「いいよ」 君が望むならどんなことも…。 言葉や優しさ、ぬくもりも。 悦楽も。 君にあげたい。
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