あなたを好きでいたいよ

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「君が日生克くんね?」 「はい。そうです」 僕が答えると寮母さんは、僕を見て言った。 「たいていの寮生は、むさ苦しいけど君は爽やかだわねぇ。 おばさん、気に入っちゃった」 「…それは、どうも…」 いかにも肝っ玉母さんという寮母さんにバンバン背中を叩かれながら、 突然で時期外れの入寮だから一人部屋ではなく、 ルームメイトがいて二人部屋ということ。 そのルームメイトが外出中で不在であることなどを聞いた。 「部屋は、ここだから先に入って待ってなさい」 「ありがとうございます」 「三階の端の部屋よ。女子寮が近いから気をつけてね」 「女子寮? …はあ」 社員寮は、男子だけでなく女子もあるとは聞いていた。 部屋は、すんなり見つかり鍵を開けると室内は、ほどよく生活感があり、 掃除したのかきれいに片づけられていた。 女子寮が近いから気をつけてねとは、何だったのかと、 カーテンを開ければ視界に入ったものに僕は、すぐカーテンを閉じた。 な、なんだ、今のは…女性の下着? 女子寮が近いだって? 男女の寮のベランダが向かい合ってるじゃないか! あんな近くで下着を干すなんて、 カーテンも開けられないじゃないか。 だいたい寮に入る社員なんて22から25の男だぞ。 他の社員は、どうしてるんだ…。 僕が女子寮のベランダが近いことに動揺している間に、 いつの間にか閉まっているはずの窓とカーテンが開いた。 振り返ると次の瞬間。 「おかえり~! ねぇねぇ、明日のデートだけどー」 「え?…ッ…!?」 いきなり抱きつかれ、胸にすりすりと甘えられ、 押し倒され尻もちをついた僕は、驚きのあまり声も出せずにいた。 僕に乗ったまま女の子が顔を上げる。 「あれ? 昌行、じゃ…ない。君、…誰?」 女の子の格好は、タンクトップにショートパンツ姿。 抱きつかれた胸は、やわらかく当たったまま。 見上げてくる目とか、屈んで見える胸の谷間とか、 いろいろ目のやり場に困って、僕はできるだけ、 彼女から視線を逸らしながら。 「それは、…僕のセリフなんだけど…」 それだけを言うのが、せいいっぱいだった。 「どいてやれよ。紫織」 そこへルームメイトが帰ってきて彼女に言った。 それが僕と長野昌行、上條紫織の出会いだった。
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