あなたを好きでいたいよ

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紫織との関係は、曖昧なまま三ヶ月が過ぎた。 彼女は、少しずつ自分を取り戻し、以前のように明るく笑うようになった。 抱き合うことが運動効果になるのか、眠れるようになり、 痩せすぎていた体も、再会した頃よりずっとずっと健康的になった。 紫織の変化は、嬉しいし、このままずっとそばにいれたらと思うけど、 彼女の胸元にはまだ一粒ダイヤのペンダント…。 そして僕自身にも変化が訪れていた。 会社からマンションへ帰る途中、紫織に電話した後で、 僕は、妹に電話をかけていた。 もう一人の妹、若菜には電話しても無視されるか、 彼女が気づかないことが多いけど萌は、いつも出てくれるのだった。 三回ほどコールして萌が出た。 「もしもし? 兄さん?」 「あぁ、萌かい。今、いいかな?」 「どうしたの? 直接携帯になんて珍しいね」 「君に頼みたいことがあるんだ」 「頼みたいこと?」 「うん。こないだ参考書、選ぶのについてきてほしいって言ってただろ? そのついででいいからつきあってほしいところがあってさ」 「いいよ? どこに行くの?」 「男一人じゃ行きにくい場所…。百貨店の女性のアクセサリー売場だよ」 「あたしが一緒に行って…いいの?」 「どういう意味だい?」 萌は、近くに若菜と悟がいるのを配慮してか声を落とした。 「そういうのって一緒に行って選ばせてあげる方が、 喜ぶと思うけど一緒には、行かないの?」 「………」 本当に彼女だったら、そうすることもできるけど…。 紫織は、まだ僕の彼女じゃない。 「まだ彼女じゃないんだ…」 「え?」 「……僕が一方的に好きなだけ、なんだよ」 妹を相手に何を言ってるんだと思ったけど萌は、 僕に何か言うでもなく、短く承諾の返事をして電話を切った。 僕の状況や都合で、紫織を急かすのは嫌だと思っていた。 僕に急かされて決めるのではなくて紫織自身で、 出した答えを聞きたかったから…。 だけど神戸に転勤が決まって来年の春から、 僕は、紫織のそばにいられなくなる。 僕の気持ちとしては、結婚してついてきてほしいけど、 そのことを伝えるキッカケが見つからず。 今度会ったら彼女の気持ちを聞いて、 彼女の答え次第では、プロポーズしたいと考えていた。
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