あなたを好きでいたいよ

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約束の日。 紫織と会う前に萌と銀座で落ち合い、 アクセサリー売場を見て歩く。 どれも同じに見えるけど、…紫織には、 何でも似合いそうに見えてきた。 「うわぁ可愛い~…。でも高校生のあたしじゃ分不相応だなー」 隣を歩く萌が無邪気にはしゃぎ、感想を言っては目を輝かせる。 その様子に目ざとい店員が僕らに声をかけてきた。 「社会人の彼氏さんですか? 素敵ですね~」 「兄さん、彼氏だって!」 「まあ、ごめんなさい。お兄様でしたの」 「いえいえ。似てないから、よく間違えられるんですよ」 「仲がよろしいんですね~」 ニコニコと笑いながら適当にすり抜け、 僕は萌についてきてもらった礼を言い近くの書店へ向かった。 有楽町までやってくると駅が近いからか人は、多くなってくる。 僕も書店は、好きでよく行くけど紫織のいる書店の方が見やすいな。 「ねえねえ兄さん、これなんてどう?」 悟だけじゃなく、萌にも僕の腕や手を引く癖がある。 「ん? どれだい?」 彼女の持ってきた参考書を開きながら、 見ているとどこからか視線を感じた。 その視線の先にいたのは…。 「紫織?」 先に紫織に気づいたのは、妹だった。 待ち合わせの時間には、まだ少しある。 仕事熱心な紫織がライバル書店を覗くのは、何ら不思議なことじゃない。 日頃かっちりした服装の紫織がシンプルなガーリースタイル。 驚いたのは、紫織の瞳から涙があふれたこと。 「紫織、どうし…」 僕の問いかけに答えず、黙って立ち去る彼女を反射的に追う。 わけがわからない…。 「待って! 紫織」 ビルの角で追いついた彼女の腕を捕らえ手首を掴み、強引にキスした。 こんなやり方は、したくないけど一度止まってほしくて夢中だった。 深いキスに紅潮した頬と濡れた目尻に涙が残っている。 それを拭う僕の指を紫織は、拒まない…。 「…なんで逃げるんだよ」 優しく聞けば長い睫の端から流れる涙。 やがて唇が動いた。
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