あなたを好きでいたいよ

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「最初から僕は、君しか見てないよ。……安心した?」 「…なんで一緒にいたのよ?」 「それは、…その一人じゃ…恥ずかしくてさ」 「恥ずかしい?」 「百貨店の女性の指輪売場についてきてもらったんだ」 「指輪? なんでそんなの…」 「君に渡したいから」 「え?」 「本当は、今日会ってから言うつもりだったんだけど…。 転勤が決まって春から神戸に行くことになった」 「…神戸…?」 「紫織、一緒に来てくれる?」 「一緒にって…」 紫織の声は、震えてる。 僕は、紫織の左手を取って彼女の薬指にキスした。 「結婚しよう」 「……!!」 「聞こえた?」 「…もう一度言って?」 「結婚しよう。…僕は、君の旦那さんになりたい」 抱きついてくる紫織を僕は、強く抱きしめる。 「…ヒナ…」 「その呼び方は、格上げしてほしいね。君は、日生紫織になるんだから」 「…克…」 よろしいと髪を撫でながら本当の意味で、 その時初めて彼女を抱きしめている気がした…。 「……ねぇ携帯、鳴ってない?」 「え?」 紫織に促されて携帯を見ると着信履歴がある。 「あぁ! 忘れてた!」 「なに?」 青くなって慌てて電話すると出てくれた。 「萌、ごめん! 書店においていって…今どこだい?」 「プランタンで服、見てるよ」 「そうか。…それでさ、言いにくいんだけどこれから…」 紫織をちらりと見ると彼女は、不思議そうな顔をしてる。 「あたしは、適当に一人で帰るから気にしないで?」 「本当かい?」 「うん」 「……ありがとう」 そして小声で付け足す。 「それと二人(若菜と悟)に今日のことは…」 「言わないよ。参考書は、また今度つきあってね?」 「もちろん。気をつけて帰るんだよ?」 「わかってるよ。じゃあね」 携帯を切りはーっと息を吐いて紫織を見ると彼女は、笑っていた。 「妹さん?」 「うん。さっき書店に置いてきたからね」 「いいお兄さんなのね。……羨ましいわ」 そう言えば…紫織も兄さんがいるんだったな。 紫織は、僕の手を取りじっと見つめた後、 恥ずかしそうに俯いて言った。 「…ねぇ、…二人きりに…なりたい…」
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