あなたを好きでいたいよ

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わたしとヒナ、日生克は恋人になった。 「日生くんと…。よかったね。紫織」 報告するとやわらかく笑ってくれるのは多佳ちゃん。 長谷川多佳子。 同郷の元同期で人事所属。 ヒナの入寮後彼とは入れ違いで先に寮を出た、 わたしのルームメイトだった子だ。 お互い地方から上京して右も左もわからない頃から一緒にいて、 多佳ちゃんは、わたしと昌行、ヒナのことも知っている。 わたしは、前職を辞めた時に一切の消息を絶ち、 人事の彼女には、会社を辞めてどうするのか心配されたけど、 あの頃のわたしは、疲れ果て一人になりたくて曖昧に交わしていた。 多佳ちゃんは、わたしの先輩だった月島さんとおつきあいしてるらしい。 彼から聞いてわたしのいる書店まで会いに来てくれたのだ。 それがヒナと再会するひと月ほど前のこと…。 会いに来てくれた多佳ちゃんは、わたしの変わりように絶句してた。 田舎からやってきた母のように取り乱すので、一時店からわたしが彼女と出たほどだ。 昌行と別れ、両親から縁を切られ、一人で生きていくのだと思っていた。 そんな時にわざわざ店まで来てくれたことは、戸惑ったけど嬉しい気持ちもあった。 ヒナと再会して、多佳ちゃんとわたしは時々こうして会っていた。 会うたびに顔色がよくなった、きれいになったと驚かれた。 意味ありげに多佳ちゃんが呟く。 「紫織にはまーくん(昌行)より、日生くんの方が合うなって思っていたよ」 「そうだったの?」 「つきあってるのは、まーくんだけど日生くんといる時の、 紫織の方が見ていて自然な感じがしたわ」 「……」 それは、わたしと昌行の関係を知る他の人にも言われたことがある。 つきあっているのは昌行なのに、お互いの雰囲気が離れていったのか、 ヒナは、寮のベランダで手を取ってくれていた時も不思議と身を預けられた。 わたし達は、当たり前のように互いに触れていた。 彼が、我慢してくれていたようだけど……。
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