あなたを好きでいたいよ

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「…まだつけているの?」 「え?」 多佳ちゃんの視線は、わたしのペンダントにあった。 「あ、あぁ…これ」 昌行のくれた一粒ダイヤのペンダント。 消息を絶つ前、…昌行と繋がるものは全て捨てようとしたんだ。 会社も当時住んでいたマンションも、携帯番号もメアドも。 昌行に繋がる人間関係、自分の両親も、仲のいい多佳ちゃんも。 今は恋人のヒナさえ…。 それくらいしないと忘れられないと思った。 自分にけじめをつけるためだったのに、これだけは捨てられなかった。 「もうつけるのが習慣で、ないと落ち着かないの」 「……そう。ま、じきに指輪もらうだろうしね!」 婚約指輪…。 正直なところ実感がついてこない。 彼がプロポーズしてくれたことは、わたしを驚かせた。 つきあってないのに肉体関係がある。 彼は、そのことをどう思っているんだろうと思っていた。 初めて一線を越えた時には、わたしからは余裕があるように見えたのに、 そんなことはなくて何度となく触れるたびに聞かれていた。 「嫌なら言って。余裕ないから。君の嫌がることは、…したくない…」 好きだよって囁く低い声も、キスする唇の甘さも。 抱きしめてくれる腕の優しさも。 求められる激しさも。 昌行のそれとは違ってた。 長くつきあったのは昌行だけ。 わたしは、彼の愛し方しか知らなかった。 比べたくなくても、ふとした瞬間に感じていた。 二人のわたしへの愛し方は違うって。 枯れた大地に行き渡る水のような愛情をくれるヒナ。 気がつけば愛されることに貪欲になってた。 もう誰かを好きになるなんてないかもしれないと思ったのに…。 愛することも愛されることにも臆病になって、 自分を殻に閉じ込めて、そのくせ愛されている実感に飢えてた。 昌行じゃないとだめで苦しくて仕方なかったのに…、 受け入れて望んでしまう自分が怖かった。 ヒナを受け入れられることに望むことに戸惑ってた。 寂しい? 好き? 確信が持てないまま時が過ぎて、 失いたくないと思った時、やっと気づけた。
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