あなたを好きでいたいよ

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「今から会えるか?」 すれ違いが長く続いて会えなかった時のこと。 彼は、わたしを夜の街へ誘い出した。 きれいにしてこいよなんて、ずっと会えなかったのだから言われるまでもない。 逸る気持ちを抑え、待ち合わせ場所に恋人の姿を見つけ抱きつくと、 脅かすなよと笑いながら、私の肩を抱いて歩き始める。 久しぶりに会う恋人は、また素敵になっていてわたしは大人しく彼についてゆく。 通されたのは、きれいな夜景の見えるレストラン。 見惚れていたら小さな紙袋を、ずいと顏の前に突き出された。 「ん、プレゼント」 「え?」 紙袋に隠れて彼の表情は、見えない。 反射的に受け取ると素っ気ない言葉が続く。 「紫織、今日誕生日だろ」 「あ!」 「忘れてたのか?」 「…ごめん」 俺のは、覚えてるくせに…と呟く彼の顔は、赤い。 「開けていい?」 「いいけど返品不可な。俺、こういうのわかんねーし」 「しないもん」 箱を開けて中から出てきたのが、一粒ダイヤのペンダント。 そのペンダントは、女性なら憧れる老舗店のもの。 驚いて彼の顔を見つめる。 「これ…」 「ずっとほしがってたろ」 「でもわたし、ねだったことなんて一度も…どうしてわかったの?」 「あぁ? バーカ。何年お前の彼氏してると思ってんだよ」 「…。嬉しぃ…ッ…」 感激に涙を滲ませるわたしを見つめる瞳は、優しい。 テーブルの端には、予約した部屋の鍵が置かれていた。 「ありがと…。ありがと、昌行…。大事にするね。ずっとずっと…」 久しぶりに夢を見た。 いつも泣いて起きてしまう夢ばかりだったのに、 ペンダントをもらった時の夢。 あの頃は、まだヒナを知らない…。
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