あなたを好きでいたいよ

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ぼんやりした頭で目を覚ますとそこは、ヒナの部屋のリビングで、 ソファに横になってしばらく微睡んでいたみたいだ。 今日は、シフト制のわたしの休みで平日。 「代休を取るから一日一緒にいられるよ」 そう言われてきたのに…。 「午前中だけ、どうしても会社に行かなきゃいけなくなった」 「ごめんよ。紫織」 何度も申し訳なさそうに言って彼は、出て行った。 窓の外を見るとすごくいいお天気…。 真っ青な空には、雲一つない。 元々こぎれいにしてあったけど掃除や洗濯も終わって、 もう一つの部屋の奥には、いくつものダンボールが乱雑に積まれ、 それは、住人が出ていくことをわたしに教えていた。 することがなくなって、何か飲もうかとソファを立ったらインターホンが鳴った。 こんな平日に誰だろう?と思いながら出ると、 訪問者が短く「俺だ」と言った。 まだ声だけで誰かわかってしまった…。 長野昌行。 わたしの元カレだった人。 ヒナがいない時に出ていいものかしら? ちょっと迷ったけど思い切って出た。 仕事の事だったら悪い。 わたしの事情とヒナの仕事は、別問題だし…。 おずおず出ていって後ろ手にドアを閉めると、 やや疲れた表情の昌行がスーツ姿のまま立っていた。 こんな時間にどうしてここに…? 昌行も代休だろうか。 「何か用? ヒナならいないわよ?」 「知ってる。俺が会いに来たのは、紫織お前だよ」 「え?」 思いがけない言葉に目が点になる。 「…よくここにわたしがいるってわかったわね」 「日生に聞いた。お前に渡したいものがあって連絡したいと言ったら、 今日は、自分の家に来ているとあっさり教えてくれた」 「…そう」 ヒナは、わたしが昌行と会っても平気なんだろうか? わたしを信用してくれてるの? 「少しいいか? 話がある」 そう言ってヒナのマンションから離れ昌行は、先に歩き始めた。 夢の時と同じに横を歩くこともなければ、 彼がわたしの肩を抱くこともない。 少し昌行から離れて後をついていく。 わたしに話しって何なんだろう…。 渡したいものって? 昌行は、わたしの前を歩きながら一度も振り返ることはなかった。
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