あなたを好きでいたいよ

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これを返されるという事は、何を意味するのか。 ハガキを見つめ、わたしが黙りこんでしまうと昌行がベンチから立った。 遠く離れていった背中とは、違う背中が目の前にある。 「…結婚するのか」 わたし達は、元恋人そして元婚約者同士。 彼の口から結婚の二文字が出ると、まだ微かに心がざわめく。 「……悪い。ハガキだから読んじまった」 「うん…」 「相手は、日生…だよな?」 わかっていながらなぜそんな言い方をするのか、 今度は、そうよってはっきり言った。 自分から聞いたくせに、わたし以外の女性と結婚したのに…。 ひどく悲しい瞳がわたしを見つめ、 押し殺した声が続く。 その時なぜかこれ以上聞いてはいけない気がした。 だけど動けなかった。 「……そうなるだろうと思っていた」 何が? どくどくと胸が鼓動を早く打ち始める。 弱った男の独り言と思え? 言って仕方ないことはわかっている? わたしの動揺を無視した前置きが並べられていく。 「お前、…俺が本当に何も思わないでいたと思うのか」 その声は、今まで聞いたことのないつらそうな声で、 ずっとそばにいたのに初めて聞く声だった。 こんな昌行をわたしは知らない…。 わたしが好きだった昌行は、いつも笑っていて。 怖いもの知らずで、やんちゃばかりして。 親や先生に叱られてもヘラヘラ笑ってるような人で…。 悲しそうな顔も、寂しそうな顔も一度も見せなかった。 ええかっこしいなのに、どこか抜けていて…。 なんで今になってこんなこと言うの?  なんでそんな表情するの? こんなこと言うために会いにきたの? 「…紫織と日生が出会った時、予感がした。 この二人は、いつか惹かれあうだろうと」 「!」 うまく…うまく声が出ない。 絞り出すように少しずつ言葉が出ていく。 「…あの時、あなたも…一緒だったじゃない。そんなこと…思ってたの?」 「あぁ」 「嘘でしょ? ……そんなこと一言も…」 「お前に言えるかよ」 「……」 「お前だって気づいてたろ。俺よりあいつの方が、価値観も相性も合うって」 「……」 「知れば知るほどお前らは、似てたからな。…時間の問題だと思った」 「…そんな…」 わたしの手を離したのは、…。 振り切ったのは、あなただったのに…?
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