あなたを好きでいたいよ

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「………」 堪えているはずの涙が頬を落ちた。 その頬にそっと触れるだけのキスをする。 それは、子供の頃から大人になっても続いたおまじない。 喧嘩してわたしが泣いたら、昌行が慰めようとするキスだった。 どうしてこんな時に…。 「これ、…もう捨てろよ」 くいと鎖骨にあるペンダントの鎖を指で持ち上げられる。 「うん…」 視界が涙で歪みそう…。 待って、もうちょっともうちょっとだけ。 「神戸ついて行くんだろ?」 「…うん…」 「元気でな」 「うん」 焼きつけておくのよ…。 「すまなかった…。じゃあな」 「…うん。さよなら…」 わたし達は、遊歩道で別れた。 恋人でもない、幼馴染でもない他人に戻って。 握りしめたハガキは、手の中でぐしゃぐしゃになっていた。 堪えていた涙が堰を切ったようにあふれ地面を濡らしていく…。 さよなら…。 さよなら昌行…。 さよなら…。 昌行を大好きだったわたし。 いつまでも遊歩道に佇んだまま、 昌行の姿が見えなくなってもわたしはそこにいた。
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