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「これは?」
くしゃくしゃになった一枚のハガキをわたしは、婚約者に見せた。
それは、先日母が昌行に託し戻ってきたもの。
結婚の挨拶に行きたい旨が書かれた端の方にもう一人。
別の人物の字が一文添えてある。
娘など最初からいないという拒絶の言葉。
婚約者は、ハッとしてわたしを見つめる。
少しずつ思うことを言葉にしていく。
「・・・これでいいのかなって思ってしまったの」
「どういう意味?」
あの時も、言いかけて小さく息を吸う。
あの時もわたしは、恋を選んだ・・・。
蝶よ花よと可愛がられて育った一方で、その別格の違いを、
兄や弟は、わたしのことをよく思っていなかった。
子供の頃は、その理不尽さを両親にぶつけていた兄弟たちも、
やがてあきらめわたしと兄弟の関係は、ぎこちないまま今に至る。
本当にヒナの兄妹とは、対極なほどに・・・。
昌行の実家とは、家同士がビジネスの関係にある。
いずれ彼と結婚して戻り、女将を継ぐことを条件に上京が許されていた。
・・・最初は、社会勉強のつもりだった。
高校を卒業してすぐ若女将になるのは、不安だったから。
そして何より昌行と離れたくなかった。
婚約破棄の後、両親から勘当を言い渡されたとき思った。
わたしだけが気づかなかっただけで・・・。
本当は、彼はずっとわたしとの関係にのびのびできず、
窮屈だったんじゃないかと思い込んでた。
だからこそ彼の”最後の言葉”は、ずっと長く心の奥底に残ってしまった。
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