あなたを好きでいたいよ

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「紫織、目を閉じてくれる?」 「え?」 ヒナが今、一人で住んでいる社宅。 結婚するから家族向けのマンションを希望したと聞いていた。 部屋の前までやってきて彼は、ちょっとお願いと切り出した。 「何かあるの?」 「うん。・・・ビックリしてくれると嬉しいけど」 目を閉じているので靴を脱ぎ、 彼に手を引かれながら恐る恐る室内へ入る。 ガラリと窓を開ける音がした。 「もう開けてもいい?」 「いいよ」 「え? ここ・・・って・・・」 「気がついた? そう、僕らのいた寮に似てるんだよ」 もちろん向かいにマンションは、建っていないけど、 ベランダ越しに会っていたあの場所とよく似ている。 「ここへ初めて来た日、出会った日のことを思い出してたよ」 「え! やだ、忘れてよ」 「無理だよ。あんなインパクトの強い出会い、そうないだろ?」 「そうだけど!」 「冗談だよ。この場所でこれからは、ずっと・・・君と一緒だね」 「・・・うん」 「あぁ、出会った日のことで思い出したよ。これ・・・」 ごそごそとジーンズのポケットを探り、 大切そうにティッシュに包まれたそれを彼は丁寧に開いて見せた。 「・・・これ・・・どうして・・・」 それを見てわたしは、言葉を失う。 だってヒナの手のひらにあるのは、・・・。 わたしが捨てたはずの、・・・昌行から贈られた。 一粒ダイヤのペンダントだったから。 「大切なものだろ?」 「大切、・・・だったの間違いよ」 「・・・君がこのペンダントを手放せなかった理由、やっとわかったよ」 「え?」 言いながらヒナは、苦笑を浮かべた。
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