あなたを好きでいたいよ

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久しぶりに与えられる彼の熱は、内側を擦るたびに 怒張し紫織の中を割り開いていく。 「ぁっ、あ……あっん、あっ…!」 「紫織、…イイ?」 吐息まじりに囁くと耳朶を舐め上げられ、 鼓膜から直接届く卑猥な水音に紫織は肩を縮めて身を震わせる。 彼を前にして余裕なんてない・・・。 余裕のなさが、どんな声もこぼれさせてしまう。 「あん、あん、あっあっあっ! あっ、あぁんっ!」 「ここ、こうして欲しかったんだね。 …ずっと」 「ぁん、も、もっと、もっとぉ……!」 「…可愛い…、ね」 すでに何度となく達しているのに彼は、やめる様子はない。 満足げに微笑み、寝かせてあげられないかも…とキスされる。 「あぅん…は、あぁ…っン……あぁあ…っ!」 思い切り突き上げられると、また違う声が上がり、 紫織は、ほどなく絶頂を迎え克もまた彼女の中に熱い思いを注いだ。 離れていた時間を埋め尽くすよう何度も抱き合い、 悦楽の余韻にひたる紫織の髪を撫で、彼は呟く。 「いつか君と・・・月の道を見に行きたい」 「月の道?」 「ひと月にほんの数日・・・。満月の前後の数日間だけ見ることができる道のことだよ」 「そんな道あるの?」 「海から月が昇りはじめると、月光が海に映り、細長い光の道が海面に現れるんだ」 「素敵ね・・・。そう言えば仕事が終わってから二人で海へ行ったわ」 「・・・あの時も天候条件がよければ、見れたんだけど」 「何か思い入れがあるの?」 紫織の言葉には、答えず克は微笑む。 あの夜、僕は高校生だったか。 若菜と悟と手を繋ぎ、母の病室へ行くと父が来ていた。 萌と若菜が殺人犯の顔を見てしまい、萌の心のケアに大変だった時だ。 その頃まで父は、仕事人間で母は家庭の一切を引き受け、 それまでどうにかなってきたことが、一気に崩れた。 青白い月の光に照らされた父の背中は、震え。 父は母の手を握り、泣いて謝っていた。 「桜さん、すまない。・・・ごめん、ごめんよ」 両親が見合い結婚で忘れられない人がいると断った母を、 父が望んだという話を聞いていた僕は・・・。 泣かさないと約束したのにと言う父にその場を動けなかった。 それからの父は、家族との時間を大事にするようになり、 その後の家族旅行で僕は、初めて月の道を見た。
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