二合目の防空壕

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 翌日、朝食を終えると私たちは十時に函館山登山口に集合した。いつも一緒に遊んでいる五人組である。名前を挙げると、配管屋の倅で小学五年生にしてはがっしりとした体躯を持つ山上太郎(ガミ)、妙見寺の住職の息子で小柄で泣き虫の今野修二(メソ)、大工の一人息子でスポーツ万能の渡辺孝之(トリオ)、つい先月出港した北洋船団で大好きな父親がベーリング海に出かけてしまった木村洋助(シャケ)、それに私、岡田和泉(カズ)。この五人である。函館山の麓にある市立小学校の同級生で、五人とも好奇心旺盛なやんちゃ盛りだった。  登山口は、函館護国神社という大きな神社の境内のすぐ横にあった。朝からよく晴れ渡った好天気で、蝉時雨がうるさいほどに降り注いでいた。  私は幅の広い石段を登りきり、鳥居をくぐったところで振り返ってみた。登ってきた石段の向こうにゆったりとした下り坂が続いている。坂道を下りきった所を要として広げた扇のように、函館の町がくっきりとその姿を見せていた。境内に目を戻すと真正面に本殿が静かな佇まいを見せている。その裏手はもう函館山の深い森だ。崇高な気配を漂わせる神社に向かってたった今くくった鳥居の立つ石畳の上を少し歩くと、右側に小さな石造りの門柱を置いた出口が見えた。出口の向こう側を道路が走っている。車が何とかすれ違えるくらいの幅員を持つ坂道である。右に下ると十メートルくらいでT字路となり、神社に沿ってさらに右に回りこむと今登ってきた正面の石段の下に出る。石段は二十段くらいはあるから、護国神社が函館山の斜面を切り開いた場所に建てられていることが分かる。反対に左に行くと函館山である。ここが函館山の登山口である。  私が到着したとき他の四人は既に登山口に顔をそろえていた。 「オース」     
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