二合目の防空壕

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 今年中学校に上がったガミの姉で奈津という名だった。この三月までは同じ小学校に通っていたわけで、ガミの姉だから幾度か会ったこともある。ツンと澄ました感じのする頭の良い女の子で、皆が噂するとおり端整な容姿で、間近で見つめられたりすると子供心にもどきどきと胸が高鳴るのを覚えたものだった。 「太郎。あんた、懐中電気持ってきたっしょ?」  肩で息をしながら奈津は少し馬鹿にしたような口調でガミに云った。 「持ってきたよ」  おどおどとガミは姉の瞳を覗き込んだ。 「ちゃんと見たかい?」 「何を?」 「ほんとに駄目ね。電池入ってないっしょ。懐中電気」 「えーっ」 ガミは大声を出してもう一度荷物を開け、懐中電灯を取り出した。 スイッチを数回カチカチ通してみても豆電球は灯らない。ガミは懐中電灯の後ろにあるキャップを回して、電池ケースを開けた。奈津の言うとおり電池は一本も入っていなかった。 「それは、点かないべ」  トリオのひとことをきっかけに私たちは思わず笑ってしまった。  途端にガミの機嫌が悪くなった。 「なんだよ。電池入れとかねえほうが悪いんでねえか。笑うことねえべや、このおっ」  ガミは喧嘩腰になりトリオに詰め寄った。失敗を姉に暴露され、その上友人たちに笑われたことでガミの自尊心が大きく傷ついたのかもしれなかった。 「何言ってんの。トリオ君が電池抜いたわけでないよ。自分が使う物でないの?ちょっと確認すればいいだけの話でしょ。あんたはそうやっていつも必ず誰か他の人が悪いことにする。悪い癖だよ」     
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