二合目の防空壕

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 奈津はたたみ掛けるように云って荷篭の中から古新聞で作った袋包みを取り出すとガミに放り投げるように手渡した。 「買ってきてやったからね。喧嘩するんじゃないよ」とひとこと釘を刺して奈津は来た道を戻っていった。  ガミは何一つ反論もできず俯いたまま、受け取った乾電池を懐中電灯に入れた。耳だけで姉が帰っていくのを聞いていたが、スイッチを押して点灯を確認したとき、奈津の姿はもう見えなかった。 「さあ行くべ。まず頂上の防空壕に上がるぞ」  ほんの僅かの時間口惜しさに唇を噛んでいたが、このままでは示しがつかないとでも考えたのか、それともあらためて自分がリーダーであることを示そうと思ったのか、ガミは何事もなかったように大声で号令をかけた。私たちはその号令にみな少なからず怪訝な表情を浮かべた。ガミはひとまず頂上の防空壕に登るといった。頂上の防空壕とは北洋船団の船出を見送った壕のことである。なぜ頂上の壕に登るのか簡単でいいから説明がほしかった。 「まっすぐ二合目の防空壕に行くんでないの?」  私が代表して疑問をぶつけると、ガミは笑いながら首を横に振った。     
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