1章

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五条晃仁は昔から霊感と呼ぶべきものが強かった。墓参りだと寺に行けば知らない誰かの声に名前を呼ばれる事はしょっちゅうだったし、良く分からない黒い靄の掛かった人間みたいな者もよく見かけるし、場合によっては目が合ってしまうこともある。人以外の形をした何某かもよく見かけるし、世界にはそういう者で溢れているのかと一人納得していた。 だから、最初はそう言った者の一人なのだと思った。 晃仁の勤める幼稚園の正門からじっと園の中を見つめるその人は、長い銀髪が夏の日差しを浴びてきらきらとしていて、綺麗だと思った。季節外れの真黒なスーツに、お揃いの真黒なコートを着ていて、こんなにも園を覗いているというのに他の教諭は気にしているそぶりが無かったから、他の人には見えない、人間じゃない何かなのだろうと思って、晃仁も気付かれないように視線を外した。 それに気付いてしばらくして、園に迎えの保護者たちがやって来た。晃仁の柔らかな猫っ毛の髪は染色もせずに短めに揃えられていて、保護者からの評判も良い。くりくりとした髪よりも明るい鳶色の瞳は優しそうに輝いていて、園児たちを見守っている。 園児たちを見送る際にも特に変な動きは無かったから、放っておけばよいかと思っていたが、今、日誌を書いているすぐ後ろに一人の先ほど園の外にいた筈の長髪の男がいる。 真黒なスーツ姿に真黒な長い外套を纏っている彼は、汗のひとつもかかずに楽しそうに日誌を覗き込んでいて、長い銀髪がちらちらと視界に入ってきてうざったいと思った。 昔からこの手合いは無視するのが得策だと知っていたので無視を決め込んでいたのだが、ついつい気になって振り返ってしまい、彼と目が合ってしまった。 静かな湖畔を思い出させるような、冷たい裏葉色の瞳は吸い込まれそうになるほど澄んでいて、一瞬の事だったが綺麗だと思ってしまった。 まずいと思って、この人ならざる者から視線を外し、日誌に視線を固定して業務をこなしていく。 日誌を書いたり、明日の準備や会議をしているとあっという間に時間が経ち、気付けば時計は二十時を指していた。そろそろ帰ろうかと荷物をまとめていると、例の銀髪の何かはまだ傍をうろちょろしていた。
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