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帰路に就くと待っていたとばかりに銀髪の何かが後を付いてくる。
「なぁ、お前、僕が視えているな?」
晃仁より頭一つ分ほど背の高い、黒いスーツに黒いネクタイ、夏に着るには暑過ぎる黒いコートの葬儀屋みたいな者とは関わらないのが一番だと思いながらも、こんなに親し気に話し掛けて来る者は初めてで、つい視線がちらちらとそちらを向いてしまう。
「視えてないならこっち見ないよな?」
「あぁもう! しつこいな! 視えてるよ! それがどうかした!?」
晃仁は思わずキレてしまった。ちょっと大声で叫んでから、他人に見られてないかを気にして辺りを見回したが運良く人通りの少ない場所だったらしく他の人は歩いていなかった。
「やっぱり! 僕が視える人間なんて久しぶりだ!」
なぜかそれはとても嬉々としてそう言うと、ふわりと体に夏の風を纏わせて晃仁の前へと浮き上がる。やはり、人間ではなかったのだなと、当たり前のようにそう思った。
「お前の名前はごじょうあきひと、だろ?」
「あきひとじゃなくてあきと!」
言ってしまってからしまったと思ったが遅い。こんな得体の知れない者に自分の名前を教えてしまうなんて。
「へえ、あきとね」
「そうだけど、何か?」
あからさまに機嫌を悪くしているといった様子でそう言うが、目の前でふわふわと宙に浮いているそれは気にも留めない様子だった。
「驚かないのか?」
「名前を知る機会なんてあんたみたいな存在にはいくらでもあるでしょう」
字を読める妖というのも少ないが、確かにいくらかは存在しているのを知ってはいたので、名前を知られていることには驚きはしなかった。
「うん、まぁ、そうなんだけど。なんだか調子が狂うなぁ」
「で、オレには何か用でも?」
できうるだけぶっきらぼうにそう言い放つが、やはりこの何かは気にも留めていない様子で、思い出したように要件を言い始めた。
「あぁ、そうだお前の命日を伝えに来た」
「命日……?」
命日、それは人が死ぬ日のあのことだろうかと晃仁が考えている間にも目の前の男はぺらぺらと話を続ける。
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