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「僕は死神でね。まぁ、まだそんなに件数をこなしてる訳ではないんだけど……お前の行動を観察して、死ぬに値する人物かどうかを見に来たんだ。そうしたらなんだか僕が視えているようだったから、つい話しかけてしまったという訳だ」
「はぁ……」
困惑して溜息とも判断の付かない返事を聞いているのかいないのか、目の前の死神は手帳のような物をぺらぺらと捲って読み上げる。
「お前の命日は三ヶ月後の九月十一日。脳梗塞による脳虚血で死亡とあるな」
「脳梗塞……」
「どうだ? 驚いたか?」
この死神だという者はどことなく楽しそうに聞いてくる。楽しい訳など無かったが、晃仁には特に思うところも無かった。
「まぁ、人間はいつか死ぬものだからね」
晃仁は自分の生死感に疎い傾向があった。死後の世界らしきものを垣間見ている所為もあったかもしれない。
「驚かないの?」
「こんな早くに死ぬと言うのは驚くに値することだけど、オレは一人暮らしで助けてくれる人もいないし、仕方ない事だろうね」
「ふうん。お前はそんなもんなんだな。まぁ、仕事がしやすくていいか」
今まで会った人間たちは取り乱し、慌てふためいてそれはそれは面白い反応だった。死ぬのが嫌だと泣きつき、命日までを怯えながら過ごしていた。
「一応聞くけど、助かる方法ってあるの?」
これもよく聞かれる質問だったが、そんなものは答えが決まっていて面白くもなかった。
「無いな。命日になったら僕がお前の魂を体から切り離して天に持ち帰る。それだけだ」
「やっぱり、天国ってあるんだ」
感心したように晃仁にそう言われたから、その存在は否定する。
「いや、天国があるかは知らない。僕の仕事はただ神の元に魂を運ぶだけだ」
「そのために事前調査までしてるんだ。なんか大変そう」
死が宣告されたというのに、晃仁は特に動じる事も無く肩を竦めて世間話の様な軽さで話を続ける。
「立ち話もなんだし、オレの部屋に来る? もうすぐそこだけど」
「あぁ、それなら邪魔しようかな」
「あまり広くも綺麗でもないけど……」
そう言って少し歩いた先にある、古いが丁寧に手入れをされた小さなアパートの中へ入る。
簡易キッチンが備え付けられたワンルームの室内は確かに書類や本が多く少し狭い感じはしたが、今まで見てきた人間の部屋の中では整っている印象だった。
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