1章

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「なんだ、綺麗に片付いてるじゃないか」 「それなりに、だよ。また園の行事があるから散らかるしね」 そう言って中に入るように促すと、死神も靴を脱いで上がって来た。日本人にはまったく見えない外見だが、それくらいの常識は持ち合わせているらしい。 冷蔵庫を開けて麦茶を取り出してガラスのコップに二人分注いでから、死神は飲んだり食べたりできるのか気になった。 「お茶は飲めるの?」 「別に水分も食事も必要はないが摂る事はできる」 何故か偉そうにそう言われたので、麦茶の入ったガラスのコップをローテーブルの上にかちゃりと置く。 「そうなんだ。せっかく二人分用意しちゃったからどうぞ」 「ありがとう」 礼を述べると死神はローテーブルの前に正座して座ると、麦茶を一口口にする。 「なるほど、お茶というのはこういう味をしているんだな」 「飲んだことなかったの?」 「まぁ、死神だしな。お茶なんて出されたの初めてだ」 それもそうかと一人納得している間にも麦茶が気に入ったのか、死神は麦茶を啜っている。銀髪がきらきらしている所為か、そんな姿もどこか神々しく見える。 「で、オレの名前は晃仁だけど、あんたに名前は無いの?」 「ミズキだ」 「へぇ、綺麗な名前なんだね」 死神だから、なにかもっと禍々しい名前でも付いているのかと思ったが、意外に綺麗な響きの名前で驚いたと言うのが正直な感想だった。 「そうか?」 「うん、いい名前、だと思う」 思ったままにそう言った。人外の者と話す事なんて滅多にない、それこそ話し掛けたら呪われる、食われるような者だらけの世界でこんなに親し気に話し掛けてきて大丈夫なのだろうか。命日までは手を出してこないだろうと思うと比較的無害でおしゃべりなだけなのかもしれない。 「で、オレは死ぬに値する人間だった?」 「それをこれから見るんだ」 「分かった。好きに見ててくれていいけど、今日の午後みたいにあんまりくっついて見ないでくれ。気になって集中できないから」 「分かった」 意外と素直に言う事を聞いてくれて助かると思った。 「あと、オレ以外には見えないんだよな?」 「多分な。子供には見える傾向が強いみたいだが」 「あ、やっぱり? そうしたら園の中にも入らないでくれ」
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