愴鳴曲

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「これは一般論だが親というものはどうしても同性の子供に厳しくなる傾向にある。同性だから見え過ぎてしまう欠点に注意がいきすぎてしまう。それが自分の欠点に似ている場合、自身のコンプレックスが刺激され同族嫌悪に至る場合もあるし、また生物的な生き残りの心理から、潜在意識の中に排除や競争といった行動の要因が生まれている場合もある。つまり残酷な話ではあるが、親子間の対立というのはある意味でそれが親子の証明でもあるということだ。通過儀礼も含めてね。ただ、子供がそれに耐えられないと感じるのなら逃げることも必要だ。肯定的に見れば巣立ちとも言える。椿君、しばらくお母さんから離れて私のところへ身を寄せるといい。お母さんには私の方から話しておくよ」  椿はありがたい申し出だと思ったがすぐに返事はしなかった。なぜなら氷室の言っていることはもっともらしいが、自分と母の間にある問題の根っこはそのこととは別にあるように思えて仕方がなかったからだ。そして氷室はその答えを知っていながら、あえて一般論を口にし目をそらさせようとしている。 「先生は私の父のことをご存じですよね?」  椿は問題の本質を氷室にぶつけることにした。椿と聖の父親。自分たちが生まれる前に自殺したという男のことを。 「先生と父は幼なじみだったのですよね? 父は先生から見てどういう人間でしたか?」     
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