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「俺も刑事になるための勉強とかで忙しくなるし、お前も受験とかあるだろ」
「いいの。会える回数が減っても。譲さんの勉強の邪魔しない。私もちゃんと勉強する。だから別れるとかいわないで」
「そういことじゃないんだ。椿、お前が愛してるのは俺じゃない。お前のことを愛してくれる『誰か』を愛してるだけだ」
「意味が……意味がわからない。私は譲さんのこと――」
「お前がこの言葉の意味を理解できるようになるまでは、もうお前には会わない」
「なんで……どうして……譲さん、愛してる、愛してるのに――」
泣き崩れる椿を目にし、鈍りそうになる決心を振り切るように譲は足早に椿の前から姿を消した。そして、その数週間後だ。あのおぞましい事件が起こったのは。
「お兄ちゃん、椿と別れたってホント?」
椿と譲の仲を知っていた従妹の美雪が熱り立ち訊いて来る。譲は面倒くさそうに頷いた。
「なんでよ? 椿めちゃくちゃいい子なのに」
だからだよ。俺の前でいい子になろうとがんばりすぎて、自分に嘘をつくようになったから。いやそれだけならまだいい。あれはもう自分で自分を消し去ろうとしていた。俺の中の椿が椿を支配しようとしていた。あのままじゃ椿は俺なしでは生きていけない人間になってしまう。
「お前には関係ない」
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