愴鳴曲

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 あれからずっと考えていた。何がいけなかったんだろう。私の何がいたらなかったんだろう。あの言葉の意味は何なんだろう。『椿、お前が愛してるのは俺じゃない。お前のことを愛してくれる『誰か』を愛してるだけだ』違う、私はただ譲さんに相応しい人間になりたかっただけ。譲さんの優しさがこんな空虚で駄目な自分をいつも励ましてくれたから、釣り合う人間になりたいと思っただけ。『誰か』じゃない。私はちゃんと譲さんを愛していた。なのに何故? ううん。そうね、結局私が譲さんに相応しくなかった。ただそれだけ。所詮、私は父の亡霊。現世にこびりついた妄執でしかない私が譲さんに人として愛されたいと願うこと自体おこがましい話だったのだ。いきつく結論はいつもそこだった。 「あーん、椿の憂いた表情見てたら胸がキュンキュンしちゃうわぁ。私が男なら絶対お持ち帰りしちゃうのにぃ」 「でたよ美雪のビアン発言」  椿に抱きつく美雪を見て、同室で同じグループの南野梓(みなみのあずさ)があきれたように言った。 「うっさいわねぇ。美しい者を愛でるのに性別は関係ないのよ」 「愛でるねぇ。私は同じ美しい者だったら聖くんの方を愛でたいわ」  梓は後ろを歩いていた聖に軽く手を振る。それに気がいた聖も照れくさそうに手を振り替えした。 「やーん、照れてる可愛い」 「どこが、あんなマザコン&シスコン野郎。いつも監視するみたいに椿のことじーと見ててさ。ああ気持ち悪い」  美雪はわざとらしく身震いをしてみせて言った。 「きぃ。妹思いの聖くんの悪口は許さないわよ」 「許さなくて結構。今晩私と椿二人で寝るからあんたは聖の部屋にでも行ってなさいよ」 「なんですってぇ。あっでもそれもいいかも、でへへ」  漫才みたいな二人の喧嘩を聞き流してた椿は聖が向こうから手招きしているのに気がつく。椿は少し億劫だったが仕方なく聖の方へ向かった。 「なに? お兄様」 「人前でお兄様はやめてよ。双子なんだし」 「ごめんなさい、お兄様」     
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