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譲は決意する。あの事件の真実を必ず見つけ出すと。たとえそれがどんなに残酷なことであろうとも。それが椿と譲を結ぶ縺れてしまった糸を解く唯一の方法と信じて。それから譲は寝る間も惜しんで勉強し、更に警察官としての任務を誰よりも全うし異例の若さで刑事になる。刑事という肩書きが真実を知る上で役に立つと考えたからだ。そして真実の断片を知る。淀川葵という少女が椿の妄想ではなく実在した人物だったこと。そしてその人物もまた想像を絶する死に方をしていたこと。それでもまだ、椿が実在の人物をイマジナリーフレンドに仕立てた可能性は残されていた。
椿には会えない。氷室の手の中にある限り。
刑事になってわかったことは、氷室がこの国を動かす強大な力の歯車の一つだったという事実。楯突けば社会的に抹消されるだけでは済まないかもしれないほどに大きな。
その分、譲は聖につらく当たってしまう。聖にしか椿への思いのはけ口を見出せなかったからだ。そして月日は流れ、再び椿の前で事件は起こる。現実離れした、世にもおぞましい奇妙な事件が。
「氷角童子(ひすみのどうじ)の喰いこぼしか」
この事件が椿を救い出す最後の可能性、譲はそんな風に感じていた。
Klaviersonate Nr. 8 c-Moll "Grande Sonate pathetique"
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