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老人は顔の深い皺の一本一本を振るわせて更に言葉を続ける。
「糸車の針はどこにあるのかのう、まだ光を見いだせぬか」
「なんの……こと、ですか……」
相変わらずちんぷんかんぷんなことを口にする老人は冬馬の問いかけに答えず、徐に大智が寝るはずだったベッドの上によじ登った。
「愛より生まれたその青は、愛より赤喰って血に染まる」
老人はベッドの上でトランポリンのように飛び跳ねながら、例の椿が口にしていた歌の歌詞違いを歌い始めた。
「キツツキとぉ思えば番いホトトギスぅ彫りて葬りぃいと狂わかす」
怖いよ。なんだこの状況。それにこの人あんな飛び跳ねて大丈夫なのか? 骨折とかするんじゃ。どうしよう。老人の奇行に冬馬はパニックに陥る。無理に止めようとすれば怪我をさせかねないし、このままにしても疲労骨折や転ぶなどして危ないように思える。それにこの歌。歌詞の内容も椿が歌っていたものより数段不気味だし、なにより痛んだ声帯を無理に押し広げ擦れるような発声にガラスを引っ掻いた音のような不快感を覚える。
「童子よ童子ぃ何故、血を望むぅ」
部屋の奥に戻ってきた隆盛が老人の様子を見て深いため息を吐いた。
「母の乳では――」
「誰か呼んでくる」
隆盛がそう言って出て行こうとすると、
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