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淳也の問いかけに志保は顔を伏せ黙った。やっぱり来るんじゃなかった。なんと言葉をかければこの男から解放されるのだろう。捕まれた腕から淳也の体温が伝わってくる。目眩がしてきた。
「怒ってんのか? 俺がゴムつけなくてできたから」
「…………」
「つけたらいけねぇんだからしょうがねぇだろ。外に出せば大丈夫だと思ってたし」
「…………」
「下ろす費用は出すっつってんだからいいじゃねぇか」
「…………」
黙り続ける志保の態度に淳也の顔が怒りで歪む。
「お前、俺のこと最低だと思ってんの? でもお互い様だろ。お前だって対して好きでもない相手に抱かれてひーひーよがってたじゃねぇかよ」
「そうだね。お互い様だね」
志保は目を伏せたまま口を開いた。
「ううん。きっと私の方が最低だと思う。だから責任とってとも言わないし、下ろすにしてもお金なんて出してもらわなくてもいい」
「だったらなんで」
「もう、終わりにしたいだけだから。村野君には悪いと思うけど」
「はぁ? 意味わかんねぇし」
「痛っ」
淳也の腕を掴む手の力が強くなる。
「お前が俺のこと、好きでも何でも無いことくらい知ってたよ。でもな、軽い気持ちで始めたこと、そう簡単に終わらせられると思ったら大間違いだからな」
「やめっ」
志保は淳也の腕を振りほどこうとするが上手くいかない。志保の拒絶を受け、憎しみが淳也の顔に無数の皺となって深く色濃く現れる。
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