T

3/9
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/309ページ
「そんなにアイツの方がいいのかよ」 「えっ?」 「上条隆盛、知ってたよ。俺だってお前のことずっと見てたんだからな」  不意に耳に飛び込んできた隆盛の名前に、志保の強ばっていた全身の筋肉が緩んだ。精一杯、張っていた虚勢の糸が解けて右目からすっとこぼれ落ちる。それを目にした淳也の顔も一瞬だけ泣きそうに呆けた。だがすぐさま表情を硬くし怒鳴り散らす。 「なんでだよ。アイツ、ホモなんだぞ。男が好きなんだぞ。変態だ、気持ち悪い」 「そんなっことなっ」  興奮で呼吸が乱れ、上手く言葉を発することができない。 「上条くっやさしっひとでっ気持ち悪くっなんか、なっい」  それでも志保は隆盛への侮辱を否定しようと懸命に声を絞り出した。そんな志保の姿に、淳也の唇が歪に傾く。途方もない絶望感がいっそ滑稽だと感情が吹き出したかのようだった。 「ふへへ、ふへへへへ、そんなにあのホモがいいのかよ。だったらいっそお前も男だったらよかったのにな。そしたら俺だってお前のこと好きにならなかったし、お前だってアイツに抱いてもらえたかもしれねぇもんな。それともお前の方がアイツに突っ込む方か?」 「さいってい」     
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!