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「先生だけじゃない。片岡たちだって、遠山の家族だって、遠山のことを大切に思っている。人生ってのは苦難の連続だ。残念なことだけど心ない言葉で傷つけてくるような人たちもいる。相手を大切に思うが故に飛び出してくる厳しい言葉に打ちのめされることもある。もう逃げ出したい終わりにしたいって思うことも何度もあるかもしれない。そういうときは先生のこと思い出せ。友達や家族のことを思い出せ。きっと勇気をくれるから。きっと助けてくれるから。大丈夫、どんな選択を選んでもきっと乗り越えていける。遠山は独りじゃないから。みんなを、みんなに大切にされている自分のことを信じるんだぞ」 「先生ぇ」  堤に相談しろと、堤なら生徒を無下にすることは絶対無いと言い切っていた隆盛のことを思い出す。 「私、男を見る目無いな」 「ん?」 「ううん。先生、正義の味方みたいだなって思っただけ」  遠山は首を横に振ってから、堤の胸ポケットから垂れ下がっているスサノーンストラップを指さして言った。 「そうか? まぁ正義の味方みたいに生徒たちみんなを救える力があればいいのになって思うことはあるけど」  堤は自嘲気味に笑いながら大智からもらったスサノーンをポケットの中にしまい込んだ。 「ここは寒いしそろそろ行くか。片岡たちも心配してるだろう」 「うん」  二人が立ち上がろうとしたそのとき、ドンと何かが破裂したような音がして旅館全体を揺らした。
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