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 二人は走って階段に向かったがすぐに愕然となって立ち止まる。三階と二階を繋ぐ階段の踊り場がずたずたに崩れていたからだ。そこが最初の爆発の爆心地だったのだろう。よく見ると崩れている壁や床や天井に血や骨をつけた肉塊がべとべととこべりついている。誰かが爆発に巻き込まれその個人を判別できないほど無残な姿を晒して死んでいた。 「なんだこれ、なんなんだよこれ?」  質問ではなかった。冬馬は混乱をぶつけるように隆盛の腕を掴みせわしく揺らす。ここは戦場ではない。日本の、田舎の、どこにでもあるような旅館の階段で、なんでこんな光景が広がっているんだ。 「特に瓦解の激しい箇所がほぼ球状に形成されている。普通の爆発物ではまずあり得ん」  隆盛が冷静に状況を分析する横で冬馬は吐き気を催す。鉄錆と腐った油のような臭い。映画やゲームなどで残虐な光景は割と見慣れている。だが臭いだけは実際その場にいないと体験することはできない。これが現実(リアル)。生きていたものがバラバラになったからこそ発する臭い。でも、こんなのが人が生きてきた証だって言うのか。道路脇に放置された朽ちた生ゴミと乗り捨てられたバイクのエンジンを一緒くたにしたようなこんな臭いが。人間も所詮有機物の塊に過ぎないのだと突きつけられているような、そんな気がした。 「ここを通るのは危険か。別のルートを――」 「堤先生」  下の階から男子生徒の叫び声が聞こえてきた。隆盛は言葉を中断し即駆け出す。自分で危険かもと言っておきながら血まみれになった瓦礫をものともせず階段を下りていった。     
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