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 残された冬馬はどうするべきかと戸惑う。できればこんな所を通りたくない。崩れた壁と血肉の赤。そこがゲートであるかのような気がした。踏み入れば二度と平穏な日常に戻ることのできなくなる一方通行の狂気の門。だが別のルートと言っても近くにあるエレベーターは万が一閉じ込められたらと思うと利用したくないし、従業員用兼非常用の階段はずいぶん遠回りになってしまう。 「くそ、自分で俺から離れるなとか言ったくせに」  冬馬は悩んだ結果、意を決して狂気の門を抜けていくことにした。軽く目を閉じながら進んだ。血がしたたり落ちてくるような錯覚に陥る。  今になって自分が靴下のまま外に飛び出してきたことを思い出す。じゅわりと靴下が湿っていく。生暖かいきがした。誰かの生きていた証を靴下が吸い上げ冬馬の素肌に伝えようとしてくる。何故か昔、風呂上がりにゴキブリを踏み殺してしまったときのことを思い出した。命が自分の足の下に踏みにじられている。 「うわっ」     
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