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 ああ、思い出した。『今、自分にできることをやる』この言葉って俺の昔好きだったゲームの主人公の口癖だったんだった。『ストレンジワールド』ってタイトルのゲームで、主人公の見た目が大智そっくりだったんだよな。それで俺、出会った頃の大智にそれ言ったんだよ。「お前、ストレンジワールドの主人公に似てるよな」って。そしたら大智がきょとんとした顔して、そのゲームのこと知らないみたいだったから、俺は旧型のハードと一緒に大智に押しつけるようにそのゲーム貸したんだ。そんで次の日、大智は興奮した様子で、「めっちゃ面白いなこのゲーム、貸してくれてありがとな」って感想言ってきた。そして少しはにかみながら、「俺、この主人公に似てるのかな?」って訊ねてきたから、「ああ、似てる似てる、そっくりだよ」って言ったら「そうか、なんか照れるな。でもありがとう」そう照れくさそうに笑ってた。その様がますますゲームの主人公と重なって見 えて、微笑ましいやらくすぐったいやら、こっちまで嬉しい気持ちになったのを覚えてる。それからだ。子供みたいな姿の同級生の喜ぶ顔が見たくて、大智に自分の好きなゲームとか漫画を貸すようになったのは。  そのことなのかな。隆盛が言ってた大智を変えたことって。でも、そんな些細なことで? 俺はただ、大智の喜ぶのが嬉しくて、自分の持ってる物を貸していただけだ。ただそれだけのことだ。だけどそういや楽しかったな、この二年間。勉強が辛かったり、将来のことが不安になったりすることもあったけど、教室に行けばそういうことを忘れられた。大智と休み時間毎に馬鹿話して、横でそんな大智を隆盛が見守っていて、ときどき遠山の笑顔を遠巻きに眺めて。そんな生産性のないくだらないことを繰り返す日々が、すっごく楽しくて俺を励ましてくれてた。  隆盛に謝らなきゃ。ダチと思ってないなんて言ったこと。ずっと三人一緒だったのに。会話することは少なくても、隆盛が横にいることで楽しかったことだってあったはずなのに、俺、とんでもなく酷いことを言ってしまった。  冬馬は再び足掻き始めた。
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