分岐の末の結末の一つ

2/10
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/309ページ
 淀川葵の遺灰より作られた、氷角童子の薬。それとは別の目的で作られたもう一つの遺物。氷角童子の薬となった遺灰は、火葬場より本来廃棄処分されるはずだったものを牧村がコネと金で回収したものが使われた。そして、納骨された遺灰は当時の淀川葵の恋人が引き取り、その彼の手によって三つのブルーダイアモンドが生み出された。美しくも忌まわしいそのダイアは、いつしか淀川葵の名を文字ってこう呼ばれるようになる。持ち主を死に至らしめる呪いの宝石、『青いよどみ』と。そのうちの一つが、彼女の心臓にめり込まれている。宝石は椿の心臓の壁とほぼ同化しており、外科手術で取り出すことは不可能だと判断された。椿から『青いよどみ』を奪い取ると言うことは即ち彼女の死を意味する。  まだ、ここで死ぬわけにはいかない。お願い力を貸して。  椿が胸に手を当て祈ると、それまで外の吹雪を受けガタガタと揺れていた廊下のすべての窓ガラスがガッと音を立てると内側から強く押さえつけたようにピタリと動かなくなる。廊下中の空気が張り詰め、やがて椿が手を添えているコンクリート製の床に亀裂が生じる。亀裂は数本の筋状の罅となってまっすぐ牧村に向かって伸びていく。念力での攻撃。どれほどの力があるかは椿自身にも分からない、もしかしたら牧村に致命傷を与えてしまうかもしれない。それでも足の動かぬ彼女が自分を守るためにはもうこれしか方法が残されていなかった。  牧村が「ふっ」と鼻を鳴らすと、床を蔦状に走る罅が彼に届く寸前のところで力尽きたように止まった。  念力が掻き消された?  動揺する椿に牧村は称賛というよりは人を小馬鹿にしたようなゆっくりとした調子の拍手を送る。 「素晴らしい。じゃじゃ馬の『青いよどみ』をよくぞここまで手懐けたね。さすがは氷角童子の片割れ、次世代の氷角童子を産む巫女といったところか。しかし、残念」     
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!