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「背負った業に呑まれて、己の価値を見誤ってはいけない」
「だって、そんな、私には――」
椿は慌てて隆盛に背を向ける。
「そうか。やっぱり、あんたは――」
「まって、あれは?」
隆盛の言葉をさえぎり、椿が問い掛ける。まっすぐと腕を伸ばし、その指し示す先にはゲレンデがあった。
「なんだあれは?」
隆盛も椿と同じ問いを口にする。冬馬もゆっくりと彼らの視線の先を目で追った。
夜のゲレンデ。すでにナイターのライトは切れ、月明かりで薄っすらと照らされている一面の雪。一人の人影がゆらゆら不自由そうに雪の中を歩いている。髪の長さから恐らく女性。女は雪の中、一糸纏っていない。そして、その素肌には「あれは梵字か?」と、隆盛の言葉通り全身呪文のような文字がびっしりと描かれている。
「彼女と同じだわ」
椿が呟く。そして叫んだ。
「また現れた。彼女と同じ氷角童子(ひすみのどうじ)の喰いこぼしよ」
「氷角童子(ひすみのどうじ)の喰いこぼし?」
囁くようになされた隆盛の問いかけ。しかし、椿はそれに応じることなく、
「あはははははっあはははははっあはははははっあはははははっ」
狂ったように笑い続ける。
修学旅行の初日の夜、その悲劇は幕を開けた。開幕ベルのように響く狂った女の笑い声。青い月に照らされた雪の上にどさりと悪夢が横たわった。
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