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「松本、ブレーキ、ブレーキ」
堤の声に、はっとなるも時すでに遅し。斜面が終わったにもかかわらず滑走の勢いを殺せなかった冬馬は絶叫しながら体を雪の地面に思いっきりダイブさせる。
「大丈夫か、松本」
堤は慌てて雪に埋もれた冬馬に駆け寄る。それを見た複数のクラスメイトの女子たちが、「松本ってばこんな初心者コースでコケてる」「マジうける」と指差して爆笑しだした。
冬馬は「うっう」と呻きながらちらりと顔を上げる。その自分を笑っている集団の中に冬馬が少し気になっている遠山志保(とおやましほ)の姿があった。彼女は他の女子とは違って大っぴらに馬鹿にするようなことは言ってないもののそれでも控えめにクスクスと笑っていた。
最悪だ。片思いという程強い恋心を抱いていたわけではないが、それでも思春期の男子学生の心を砕くには十分すぎる。
「もうダメ。俺、冬眠する」
「寝るなぁ」
直立不動で雪に突っ伏す冬馬を堤が抱えて起こす。
「しっかりしろ。傷は浅いぞ」
「心の傷が深いのです」
そんな二人のやりとりに周囲の笑い声はますます大きくなった。
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