愴鳴曲

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愴鳴曲

 朝比奈椿は夢を見ていた。中学の頃の夢だ。自分の人生に諦めを抱き始めた頃でもある。 「先生、どうして母は私にだけに辛く当たるのでしょうか?」  椿は幼い頃から母親や母方の祖母より虐待を受けていた。それは直接的な暴力ではない。母親や祖母は双子の兄、聖に対しては過保護と思えるほど溺愛していたのに対し、椿には躾と称しそれは厳しく接していた。家族の中で祖父だけが椿を庇ってくれていたが、最近になってその祖父も痴呆が始まり意味不明なことを口走るばかりになった。家の中で居場所を無くし耐えかねた椿は幼少より何かと父親代わりのように世話を焼いてくれていた氷室に相談を持ちかけた。  氷室は椿の方に向かず手元に目を向けたまま口を開く。     
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