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 冬馬はドンドンと部屋の扉が乱暴にノックされる音に起こされる。あれからまたゲームを再開したのだがいつの間にか眠りこけていたらしい。なんかまた嫌な夢を見ていた気がする。冬馬は目を擦りベッドから這い出た。既に隆盛が来客の応対をすべく部屋の扉に向かっていた。冬馬はそれを部屋の奥から覗き見る。隆盛が扉を開けると、 「ひぃっひっひっひっ――」  聞き覚えある笑い声が聞こえてきた。昨日の夜、突如現れ不気味な言葉を撒き散らしていた朝比奈老人の声。 「じいさん、なんか用か――うぉ」  隆盛が言葉の途中で仰け反る。老人が突如、杖を前に突き出したためだ。壁のように通り道を塞いでいた隆盛が横によけたことをいいことに、老人はつかつかと部屋に侵入してくる。杖を突き、自身の足も枝のように細い割にはしっかりとした足取りに見えた。冬馬は慌てて顔を引っ込める。 「かわいそうに。かわいそうにぃ」  部屋の奥まで入ってきた老人はゆっくりとした動作で冬馬の方に向き直りそう呟いた。冬馬は改めて思う。大変失礼な話だがしわくちゃでやせ細った和装姿のこの老人は昼間の明るい内に見ても妖怪変化の類いに見え、畏怖の対象に思えて仕方が無い。     
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