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 隆盛は旅館の廊下を足早に移動しながら、ほんの少しだけ過去のことに思いを巡らせていた。  この五年間、生き続ける理由を反芻する様に生きてきた。それは同時に自らの死を認めてもらえる理由を探し求める行為でもあった。あの人の死が自分の残りの人生を余生に変えてしまった。それは余りにも長過ぎる余生であった。  彼に出会ったのは隆盛がまだ幼稚園に通っていた頃のことだった。生まれもって高かった霊感の影響で、霊障に苦しんでいた幼い隆盛を彼が救ってくれたのがきっかけだった。 彼は徳の高い僧侶であった。僧侶にしては、若さに満ち溢れ快活だった彼は、隆盛の目に正しくヒーローとして映った。その日より隆盛は、同級生たちが夢中になっていた、特撮ヒーローやアニメの主人公などへの興味を一切失う。何故なら自分の眼の前には、具現化されたヒーローが存在するのだから。偽りの中のヒーローなど文字通り虚構の存在と冷めた目でしか見ることが出来なくなっていった。  彼には隆盛と同い年の息子がいた。だが、彼の伴侶であろうその息子の母親に当たる女性がいた形跡はどこにもなかった。それも当然でだった。なぜならその息子は、ヒトの遺     
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