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 澄み切った青空の下、白銀の斜面に描かれる幾本もの線模様。あるものはジグザグに、あるものは真っ直ぐに、それは大勢の人々の歓喜が残す雪上の軌跡。 「くそぉ、大智(だいち)の奴、なんで休むんだよ」 人々が開放感と冒険心(アバンチュール)を求め謳歌するゲレンデで、松本冬馬(まつもととうま)は一人腐って恨み言を口にした。彼はスキー板の上で生まれたての子鹿のように足をガタガタと震わせていた。 「松本ぉ、足はハの字に。背中は丸めるなぁ」  なだらかな傾斜の麓の方から担任で体育教師の堤(つつみ)がはりきってアドバイスしてくるも冬馬の耳には全く入ってこなかった。今、彼の頭の中は寒さと恐怖と友人への不満で満たされいた。  修学旅行一日目のスキー教室。本当なら今頃、大智と二人でサボってゲームでもしていたはずだった。寒いのと体を動かすのが嫌いな二人は前もってスキー教室をサボろうと結託してた。しかし、修学旅行当日になって大智が風邪で高熱を出して欠席することになり、さりとて一人ではサボる度胸もない冬馬は泣く泣くスキー教室に参加せざる得なくなった。いってみれば完全な逆恨みだが、大智の体格が小学生並に小さいせいか、どこか教師たちも大智に甘いところがあり、万が一サボっていたのがバレても大智と一緒ならそれほどきつく怒られないですむだろうという打算もあった。
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