別れの時にはまだはやい

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 肌を刺すような冬の冷たい風が吹き、わたしの長い髪を揺らした。  空はすっかり青さを失い、墨をぶちまけたような真っ暗闇が広がっている。夜の帳が下りた中、ちかちかといまにも切れそうな街灯と、スマホの画面の明かりだけがわたしを照らす。  高校の裏門を出てすぐの坂で仁王立ちしていたわたしを見て、慧大は複雑そうな表情を顔に浮かべていた。 「待ち伏せか?」と彼が面倒そうに言う。  切れ長の目には、不審の色が浮かべられていた。ワックスで遊ばせた黒髪、すっと整った鼻梁。不機嫌そうにしているにも関わらず、その綺麗な顔立ちの魅力が損なわれることはない。 「そうよ。こうでもしないと、あんたと話せないと思ったから」わたしはスマホをしまい、努めて冷静な口調で言った。  彼はばつが悪そうに顔を逸らした。  ここ最近、ずっと慧大に避けられていた。クラスで話しかけようとしたら露骨に無視されるし、授業が終われば友人たちとわざとらしいぐらいべたべたしながら部活へ向かう。あんたってそんな距離を一気に詰めるようなキャラじゃなかったでしょう、と遠目で見ていたわたしは眉を顰めたものだ。なかなか捕まえるチャンスに恵まれず、仕方なく、こうして彼の部活が終わるのを待ち伏せしていた。 「こんな暗いのに女子が一人でいるなんて危ないだろ。襲われたらどうするんだ?」 「大丈夫よ。逃げ足はやいし。わたし、バスケで鍛えてるから」  そういう問題じゃないだろ、と彼は頭をかいた。心配はしてくれるんだ、と少し心が明るくなる。ただ、すぐに消えてしまうけれど。
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