尽きぬ問題

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ある小さな町でのことである。 ――春。 出会いと別れと新たな生命の誕生を象徴する、うららかな春の一日。 朝日が昇り、次々と民家の窓が開かれる。 彼らはけして裕福ではない。 だが充実はしていた。 それは金銭的なことではない。 庭には花が咲き乱れ、木には小鳥がとまり、まさに小さな自然をそっくりそのまま人間の生活に当てはめたような美しい光景だった。 ある民家の風景。 1階では母親が朝食の準備をしている。 そのそばでは体格のいい父親がイスに座り、新聞を流し読みしていた。 田舎の生活とはこういうものだ。 まだまだ情報源の中核は新聞や雑誌が担っていた。 卵焼きの香りが室内に行き渡ると、2階から小学生くらいの男の子が降りてきた。 男の子はさっと走ってきてテーブルに自分の位置を確保し、朝食はまだかと母親に催促する。 「はいはい、もうすぐできるから待ってなさい」 母親の優しい声がキッチンから聞こえる。 ほどなくしてテーブルに皿が並べられた。 その上の美味しそうな湯気を立ち昇らせるベーコンエッグが食欲をそそる。 おおかたの準備が整ったところで、父親が新聞を半分に折りたたみ、テーブルの脇に置いた。 「いい匂いがするな」 「いつもパンばっかりだから、たまにはね。油と調味料にこだわってみたの」 いただきますも言わずに箸を伸ばす父親に、母親は小さく微笑んで言った。 「ところであなた」 「ん? なんだ?」 「食べてるところ悪いんだけど……」 「何だよ改まって。言ってみろよ」 母親は言いにくそうにしている。
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