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母親はまた子どもの質問攻めが来たと途方に暮れた。
この年頃はとにかく何でも訊きたがる。
子育ての経験のある者に言わせれば成長している証拠だということだが、それにしても質問の難易度が高すぎる。
教科書に乗っているような質問をして親の威厳を守る、なんて気の利いたことはしてくれない。
「あなた、お願い」
さらりとバトンを渡す。
「毎日空に向かってお祈りするんだ。そうしたら雲がなくなって、そこからお日様が顔を出すんだ」
父親は苦笑しながら言った。
「じゃあ、みんなどうしてお祈りしないの?」
子どもは素直だ。
「大人になれば分かるさ」
「じゃあ、お父さんは知ってるんだね?」
「はっはっは、お前は頭がいいな。お父さんはお前の将来が楽しみだよ」
父親は飲みかけのコーヒーを一気に飲み干すと、スーツに着替えてさっさと会社に出かけてしまった。
「僕も学校行ってくる」
子どもはさっきの答えも分からぬまま、元気よく家を飛び出していった。
2人を見送った母親はテーブルの上を片付けると、スコップを手に庭へ出た。
趣味のガーデニングの時間だ。
興味のない者から見れば何が楽しいのかと思うが、庭の土を掘り返すだけでもそれなりに面白いらしい。
こういう作業は晴天の下でやったほうが気分もすっきりしていいのだろうが、今朝はあいにくの曇天だ。
喜び勇んで花の手入れをしようとしていた彼女は、目の前の光景にしばらく我を忘れてしまった。
昨日まで赤々とした表情を見せていたポインセチアが見るも無残な姿になっていた。
少し大きめの植木鉢は数枚の破片となって土の上に散乱し、根はちぎれ、花弁は引き裂かれていた。
「何、これ……」
改めて見渡してみると謎の被害にあっているのはポインセチアだけではない。
葉牡丹もシクラメンも、手塩にかけて育ててきた花たちはその美しい姿を寿命とは違う理由で散らしてしまっている。
茫然として立ち尽くしていると誰かが声をかけてきた。
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