8人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の昼過ぎ。
3人は近隣を回って同様の被害を受けた数名を集め、町長宅へ向かった。
「これは皆さん、どうされましたか? またずいぶんとお集まりで」
この男はいつも笑顔を絶やさない。
笑っていればどんな窮状も必ず好転する、というのが彼のモットーだから、女たちが怖い顔で押し寄せてきてもそれは変わらなかった。
「そんな悠長なこと言ってる場合ではありませんわよ。町長なら、この町の現状をもっと把握していただかないと」
「把握と言われましても、このとおり安泰で……」
「いいえ、よく見てください。こんなに被害に遭った人がいるんですよ?」
「どうかなさったんですか?」
のんびりとした様子の町長も、被害という言葉が出てくると穏やかではなくなる。
「今朝、私たちの庭が何者かに荒らされたんですよ。子どものいたずらならまだいいとしても、重大な犯罪につながるかもしれませんわ」
「はあ…………」
「はあ、ではありませんよ。どうにかしてくださいな。頼れるのは町長さんだけなんですから」
「いえいえ、荒らされたのが家の中でなくてホッとしていたんですよ。皆さん、それは猫か何かの仕業じゃないですか?」
このところ野良猫が増えている。
これが凶暴な熊や猪となると早急に対策を立てる必要があるが、それくらいならと町長も悠然とかまえていた。
「あら、そういえばそうかもしれませんね……」
初めから人間の仕業だと決めつけていた彼女らは、誰ひとりその可能性を考えていなかった。
「いいえ、だからって見過ごすワケにもいきませんわ。猫なら猫で退治するなりしてください」
今度は猫を退治しろとのご要望である。
「分かりました。この件は役場の皆さんとも相談して然るべき対処をします」
にこやかな笑顔だけでは乗りきれないと悟った町長は職務を全うすることにした。
たしかに野良猫も増えすぎれば衛生面での被害が懸念される。
庭をちょっと掘られたくらいで文句を言うな、というのが彼の本音だが任期はまだ2年もある。
こんなつまらない事案で町民の信を失うワケにはいかない。
ここで汚名を着せられ敵視されれば、よほど図太い神経でなければこの町で生きていくのは難しくなる。
そうした後先も考えて彼は慎重に検討する姿勢を見せた。
最初のコメントを投稿しよう!