03.淵漣

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私達は、ランチをとりながら、監督の遺作について語り合い始めた。 淵漣(えんれん)物語~7人ミサキ~。 映画談義の殆どは、学生時代の話の焼き直しであり、蒸し返しであった。 「亡霊も怖いけどさ、やっぱり生きてる人間の方が怖い作品だったよね」 「村人同士が疑心暗鬼になって、殺しあっちゃうもんね」 「どうして、吉良監督は『7人ミサキ』を遺作に選んだんだろうね」 「評論家内でも永遠のミステリーらしいよ。(むし)ろ小津よりクロサワに近い」 「幼い頃から記憶に在って、死の前に撮りたかったんじゃないの?」 「四国では、7人ミサキ・7人同行・7人童子とか同様の話があるらしいから」 ヒロミ君の考察で一時、中断となった。 私は『四国』という広い密室に閉じ込められ、逃げられなくなったような不安感を覚えた。 もうすぐ逢えるはずなのに、何故か胸騒ぎがして落ち着かない。 淵漣。 淵に起こった(さざなみ)。 心に漣が立つなんて、監督の遺作に想いを巡らせすぎたのかも知れない。 「そういえば、お前らって、3人揃うとミサキだよな?」 「え?」 想わず、我に返った。 「ミサとサキとミキ。こわっ」 「もう、ミサとサキだけでもミサキじゃん。ミキは関係ないし」 ミキが脱退を表明した。 「ヒデキが合流したら、7人ミサキ、なんちゃって」 「ゴロウ君、シャレにならないって」
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